批評的思考で「良い質問」をする技術 会議の質を高める実践法
日々多くの会議に参加される中で、自身の発言が議論にどう貢献できているか、あるいは、もっと効果的に発言したいと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、情報が錯綜したり、結論が曖昧になったりする会議では、どのように振る舞うべきか悩むこともあるかと存じます。
会議における発言の質を高め、議論を建設的な方向に導く上で、「良い質問」を投げかける能力は非常に重要です。そして、「良い質問」を生み出す土台となるのが、まさに批評的思考(クリティカルシンキング)です。
本記事では、批評的思考をどのように活用すれば会議で「良い質問」ができるようになるのか、その具体的な技術と実践方法について解説します。
批評的思考が「良い質問」を生み出す理由
批評的思考とは、与えられた情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠を問い直し、論理的な整合性や妥当性を多角的に評価する思考プロセスです。これは、単に相手の意見に反対したり、あら探しをしたりすることではありません。より良い理解や判断に至るために、建設的に物事を探求する姿勢を指します。
会議においては、様々な情報が提示され、意見が交わされます。この時、表面的な情報だけを受け取るのではなく、
- その情報源は信頼できるか
- 示されている根拠は十分に強いか
- どのような前提に基づいているか
- 他に考えられる選択肢や可能性はないか
- その結論に至るまでの論理に飛躍はないか
といった点を意識的に「問い直す」ことが、批評的思考です。この「問い直す」プロセスそのものが、「良い質問」の源泉となります。
単に分からないことを聞く受動的な質問ではなく、議論されている内容の本質や妥当性を探る能動的な質問こそが、会議の質を高める「良い質問」です。そして、これは批評的思考によって可能になります。
会議で役立つ批評的な質問の種類と投げかけ方
批評的思考に基づいた質問は、議論の穴を見つけたり、新たな視点をもたらしたり、前提を明確にしたりする効果があります。ここでは、具体的な質問の種類と、会議でどのように活用できるかを見ていきましょう。
1. 根拠・証拠を問う質問
これは、提示された主張や結論が、どのような事実やデータに基づいているのかを確認する質問です。
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質問例:
- 「その市場トレンドに関するデータは、どのような調査に基づいているのでしょうか。」
- 「なぜその施策が成功するとお考えなのか、具体的な根拠をいくつか教えていただけますか。」
- 「競合の動向として〇〇という情報がありますが、それについてはどのように評価されていますでしょうか。」
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狙い: 主張の客観性や信頼性を確認し、感情論や憶測に基づいた議論になるのを防ぎます。根拠が不明確な場合は、それを明確にするよう促し、議論の質を高めます。
2. 前提・仮説を問う質問
議論や提案が、どのような前提や仮説の上に成り立っているのかを明らかにしたり、その妥当性を問う質問です。
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質問例:
- 「このプロジェクトは、来期も現在の市場シェアが維持されるという前提で計画されていますでしょうか。その前提が変動した場合のシナリオは検討されていますか。」
- 「顧客は価格よりも品質を重視するという仮説に基づいた提案ですが、その仮説を裏付けるデータや事例はありますか。」
- 「現状の人員体制で対応可能という前提ですが、想定以上のタスクが発生した場合のリソース計画はございますか。」
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狙い: 議論の隠れた前提を共有し、その前提が崩れた場合のリスクや代替案について検討する機会を設けます。前提が不確実な場合、その妥当性を検証するステップを促します。
3. 代替案・可能性を問う質問
示されている選択肢以外に、どのような可能性があるのか、あるいは他の選択肢と比較検討したのかを問う質問です。
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質問例:
- 「この問題に対する解決策として、他にどのような選択肢が検討されましたか。それぞれのメリット・デメリットを簡単に教えていただけますか。」
- 「A案に決定した場合、考えられる別の進め方やアプローチはありますでしょうか。」
- 「もしリソースに制約がないとしたら、どのような選択肢があり得ますか。」
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狙い: 思考の幅を広げ、より多様な可能性を検討することで、最善の意思決定に繋げます。提示された案に固執せず、柔軟な発想を促します。
4. 影響・結果・リスクを問う質問
ある決定や行動が、将来的にどのような影響や結果をもたらすのか、あるいはどのようなリスクが考えられるのかを問う質問です。
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**質問例:
- 「この変更が、顧客体験にどのような影響を与えるか、具体的に想定されている点はありますか。」
- 「導入コスト以外に、運用開始後のランニングコストや必要なリソースはどのくらい見込んでいますでしょうか。」
- 「この計画における最大の潜在的リスクは何だとお考えですか。また、それに対するヘッジ策はありますか。」
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狙い: 目先のメリットだけでなく、長期的な視点や潜在的な問題を浮き彫りにし、網羅的な検討を促します。リスク管理の観点からも重要な質問です。
5. 定義・概念を明確にする質問
議論で使われている重要な言葉や概念の定義が曖昧な場合に、それを明確にするための質問です。
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**質問例:
- 「この文脈における『成功』の定義を、もう少し具体的に教えていただけますでしょうか。(例:売上〇%増、顧客満足度〇点以上など)」
- 「『革新的なアプローチ』とおっしゃいましたが、具体的にどのような点が既存の方法と異なるのか、ご説明いただけますか。」
- 「『顧客のニーズ』という言葉が出てきましたが、どのような調査やデータから、そのニーズを把握されたのでしょうか。」
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狙い: 議論の前提となる言葉の定義を共有し、誤解やすれ違いを防ぎます。同じ言葉でも人によって捉え方が異なる場合があるため、重要なステップです。
会議で「良い質問」をするための実践ポイント
批評的思考に基づいた質問を効果的に会議で活用するためには、いくつかのポイントがあります。
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事前準備を怠らない: 会議の目的、アジェンダ、配布資料を事前にしっかりと読み込み、自分なりの疑問点や確認したい点を整理しておきます。これにより、表面的な質問ではなく、議論の本質に関わる質問をする準備ができます。
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聞く姿勢を意識する: 相手の発言を注意深く聞き、その主張の論理構造(主張、根拠、前提)を捉えようと努めます。「なぜそう言えるのだろう」「その結論は本当に正しいのか」といった批評的な視点を持ちながら聞くことで、質問の糸口が見つかります。
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質問の意図を明確にする: なぜその質問をするのか、その質問で議論のどの部分を明らかにしたいのか、自身の頭の中で整理してから発言します。「〇〇という点が不明確だと感じるのですが、それは〜ということでしょうか」のように、質問の背景を添えると、相手も答えやすくなります。
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攻撃的にならない: 批評的な質問は、相手の発言を否定したり、揚げ足を取ったりするためのものではありません。あくまで、議論の質を高め、より良い結論に到達するための建設的な問いかけであるという姿勢を保ちます。「この点をもう少し詳しくご説明いただけますか」「〜という側面から考えるとどうでしょうか」のように、丁寧な言葉遣いを心がけます。
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タイミングを見計らう: 質問は、議論の流れや発表者の区切りを見計らって行います。他の参加者の質問内容も踏まえ、重複する質問は避けるようにします。
実践例:企画会議での応用
ある企画会議で、新しいサービス導入の提案が出たとします。
- 提案概要: 若年層向けに、既存サービスに新しいソーシャル機能を追加する。
- 提案理由: 競合が類似機能を導入し、好調であるため。
この提案に対し、批評的思考を活かして以下のような質問をすることができます。
- 根拠を問う: 「競合が好調という点は理解できますが、その成功が本当に『類似機能』によるものなのか、他に要因(例:マーケティング手法、既存顧客基盤など)はないか、分析されたデータはありますか。」
- 前提を問う: 「本サービスは、若年層が『ソーシャル機能』を強く求めているという前提に基づいていますでしょうか。そのニーズを裏付ける、自社ユーザーへのヒアリング結果やアンケートデータはございますか。」
- 影響を問う: 「既存の主要顧客層(例:中年層)への影響はどのように想定されていますか。新しい機能の追加が、既存ユーザーの使い勝手を損なう可能性はありませんでしょうか。」
- 代替案を問う: 「若年層の獲得を目指す上で、ソーシャル機能追加以外に検討された施策はありますでしょうか。例えば、コンテンツの拡充や価格戦略の変更などと比較して、本提案の優位性はどこにありますか。」
これらの質問は、提案の表面的な内容だけでなく、その背景にある根拠、前提、影響、そして代替案といった多角的な視点からの検討を促します。これにより、提案の妥当性がより深く議論され、最終的な意思決定の質を高めることにつながります。同時に、質問を投げかけた自身の貢献度も高まるでしょう。
結論
会議で「良い質問」をする技術は、単に疑問を解消するだけでなく、議論を活性化させ、隠れた問題点や新たな可能性を引き出し、最終的な意思決定の質を向上させるための強力なスキルです。そして、このスキルは批評的思考を日々の業務や会議で意識的に実践することで磨かれます。
批評的思考とは、情報や意見を鵜呑みにせず、「本当にそうだろうか」「なぜそう言えるのだろうか」と建設的に問い直す姿勢そのものです。会議においても、この姿勢を持って臨み、本記事でご紹介したような質問の種類を参考に、具体的な問いを投げかけてみてください。
最初は難しいと感じるかもしれませんが、まずは一つの会議で、一つの「根拠を問う質問」をしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。批評的な「良い質問」を習慣にすることで、会議における自身の貢献度を高め、より質の高い意思決定へと繋げていくことができるはずです。